パッタナディド殿下がエメラルドの指環を紛失したことによって心に深い傷を負った二人の王子は、「近いうちにシャムへ帰るつもりだ」と清顕に打ち明けた。この話を聞いた清顕の父は、何とかして王子たちの心を柔らげる手段はないものかと思案する。 折しも夏休みが近づいていた。侯爵は清顕と相談して、二人の王子を鎌倉の別荘へ連れて行くよう取り決める。清顕は父の了承を得て本多を誘い、四人の若者たちは夏の休暇を利用して、鎌倉の別荘へと向かう。
鎌倉の別荘にやって来た四人は、庭を駈け下り松林を駈け抜けて、砂浜へとやってくる。ここで本多は清顕の白く美しい脇腹に三つの黒子があるのを発見する。この発見がやがて『豊饒の海』各巻を結びつける重要な要因となっていくのだ。『豊饒の海』とは、第一巻の主人公松枝清顕の転生をゆくえを、友人の本多繁邦が一生を費やして辿ってゆくさまを描いた作品である。従ってこの場面における本多の昴の如き黒子の発見は、『豊饒の海』全編を結びつける伏線として、重要な場面であると言えよう。